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東京地方裁判所 昭和33年(ヨ)142号 判決

東京都新宿区

債権者

小峰満

右訴訟代理人弁護士

守屋勝男

外四名

同都渋谷区

債務者

村田万一郎

右訴訟代理人弁護士

丹篤

外一名

右当事者間の昭和三十三年(ヨ)第一四二号不動産仮処分申請事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、債権者において、保証として五拾万円、またはこれに相当する有価証券を供託することを条件として、次のとおり定める。

(一)別紙目録及び別紙図面表示の土地に対する債務者の占有を解いて、債権者の委任する東京地方裁判所所属執行吏に、保管を命ずる。

(二)執行吏は、右土地上に存在する債権者の塀・天幕その他一切の工作物を撤去したうえ、債権者に対し、右土地に、店舗兼住宅用の木造建物(延四十坪以下)の建築を許さなければならない。

二、訴訟費用は、債務者の負担とする。

理由(事実省略)

一(債権者の使用権と債務者の不法占拠)

(一) 債務者が、従前の土地を、地主升本喜龍から建物所有の目的で賃借し、右地上に、木造瓦葺平家建店舗兼居宅一棟建坪二十八坪(実測四十坪弱)を所有していたこと、河田幾夫が、昭和二十五年三月二十七日、債務者から、従前の土地の賃借権と地上建物とを、代金九十万円で買い受けたこと及び右建物につき、昭和二十五年五月一日、債務者のため、所有権保存登記を経由し、同年五月十八日、同日附売買を原因として、河田幾夫の妻節子、義弟吉村平三郎両名のため、所有権移転登記を経由したことは当事者間に争いがない。

(二) 債務者は、債務者と河田幾夫との間の前述の売買契約は、岡野関治が、双方の代理人となつて締結したものであるから、無効であると主張するけれども、成立に争いのない甲第十五号証、第二十一号証、証人河田幾夫、岡野関治(但し、第一回)の各証言及び債務者本人尋問の結果を綜合すれば、右売買契約を締結するに当り、河田幾夫と債務者が、直接面接のうえ交渉した事実は、一度もないけれども、少くとも九十万円の代金で売買し、直ちに履行を完了するという趣旨における買受並びに売渡の意思表示は、それぞれ同人等がみずからしたものであり、岡野関治において、代理してしたものでなく、同人は、単に右契約の締結を斡旋したにすぎないものであることが、一応認められる。乙第二十三号(岡野関治が、みずからを、債務者の代理人であると記載している)はいまだ右一応の認定を覆して、債務者主張の事実を疏明するに足りず、他に、債務者主張の事実を疏明するに足りる適確な証拠がない。

(三) また、債務者は、右売買契約を締結して、その後二、三日を経過した頃、河田幾夫の代理人岡野関治と合意のうえ、右売買契約を解除したと主張するけれども、債務者の挙示援用する全疏明によるも、右合意解約の事実は、これを、認することができない。すなわち、

(い) まず第一に、岡野関治が、合意解約について、河用幾夫から委任を受けた事実は、これを明確に疏明する資料がない。

(ろ) 債務者が、その本人尋問において、河田幾夫が契約の解消を申し入れてきた動機として、供述するところは、首尾一貫しないところがあり、いかにも不自然であり、右供述は、たやすく信用し難い。

(は) 債務者は、その本人尋問において、売買契約を解除したしるしとして、契約書を破棄して欲しいと要求されて、債務者側で保管していた契約書(甲第十五号証と同文のもの)を破棄したと供述し、債務者の三男村田繁男証人は(当時十六才)、債務者が、破棄する現場を見たと供述して、債務者本人の供述に符合する証言をしているけれども、右各供述は、たやすく信用し難い。

(に) 債務者は、従前の土地にあつた建物の実際の建坪が、増築により約四十坪になつているのに、増築前の二十八坪として登記された事実をとらえて、その登記手続が、債務者の意思に基かない証左であると主張している。しかしながら増築によつ、建坪を増した建物の所有権保存登記をする場合において、家屋台帳に増築前の建坪が記載されたままになつているときは、これを変更する手続をとらず、増築前の坪数のまま、登記を経由する例も、実際上少なくないようであるから、増築前の建坪によつて登記が経由された事実は、それだけで債務者の意思に基かないことの明確な証拠とするに足りない(本件においても、成立に争いない甲第二十二、第二十三号証によれば、建物は、早晩、土地区画整理のため、取りこわされるので、その所有権保存登記手続は、家屋台帳記載の建坪を変更する手続をとらず、そのままの坪数によつてしたことが、一応認められる。)。この点の債務者の主張は、採用することができない。

(ほ) また債務者は、債務者が、従前の土地の実地測量に立ち合わなかつた事実を挙げ、これをもつて、間接的に、合意解約の事実を明らかにしようとしているが、そのような事実は、もとより、合意解約の事実を決定づける資料となりえないものである。この点の債務者の主張もまた採用することはできない。(右主張事実につき、債務者の援用する乙第三十四号証、乙第四十号証の一、二及び債務者本人の供述は、いずれも、合意解約の事実を明確に疏明するには足りない。)

(へ) 証人深代貞子及び債務者本人は、昭和三十一年五月頃まで、従前の土地にあつた建物に、債務者の標札が、掲示されていたと供述しているが、右供述は、少なからず明確を欠き、いずれも信用できない。

(と) 成立に争いのない乙第十一号証、債務者本人尋問の結果によりその成立を認めうる乙第十五号証のうち赤鉛筆で記載されている部分、乙第三十七号証の一、二の各記載、債権者本人尋問の結果によりその成立を認めうる乙第十三号証と証人岡野関治の証言(但し第一回)によりその成立を認めうる乙第十四号証とが債務者の手許に存在する事実等は、いずれも、いまだ債務者主張の合意解約の事実を疏明するに足りず、他に、右主張事実を疏明するに足りる証拠がない(乙第十五号証のうろ赤鉛筆で記載した点を除外した部分は、債務者は、その本人尋問において、合意解約ののち、河田幾夫をして手附金三十万円の支出をした証拠として、同人の妻節子に示すことができるようにするために、作成したものであると供述しているが、右供述は、とうてい信用することができない。証人岡野関治の証言(第一、二回)によれば、右は、税務署に示すため、その後において作成されたものであることが、一応認められる。)。

(ち) 前顕甲第二十二号証によれば、債務者が合意解約をしたと主張する日時の後において、債務者みずから河田幾夫に対し、売買代金の請求をしている事実すら窺うことができるのである。

(四)(い) 債務者は、その本人尋問において、甲第十九号証の債務者名下の印影が、債務者の印章によつて顕出されたものであることを、明らかには認めようとしないが、証人岡野関治の証言(但し、第一回)及び弁論の全趣旨によれば、右印影は、債務者の印章によつて顕出されたものであることが、一応肯定される。しかして、債務者は、その本人尋問において、債務者がみずから右印章を押捺したり、または、岡野関治をして、右印章を押捺させたりしたことは絶対にないと供述している。しかしながら、債務者本人の右供述部分は、これを裏づける適切な疏明資料がなく、たやすく信用することができない。したがつて、前記甲第十九号証は、真正に成立したものとみるべく、従前の土地の建物につき、河田節子及び吉村平三郎名義に所有権移転登記手続をしたのは、債務者の意思に基づくものというほかはない。しかして、同人等の名義で所有権取得登記を経由したのは、河田幾夫の便宜の策であつたことが、証人河田幾夫の証言によつて、一応認められる。右一応の認定に反する証拠はない。

(ろ) 前顕甲第二十一号証から甲第二十三号証、証人河田幾夫、岡野関治(第一、二回)の各証言を綜合すれば、売買契約締結後間もなく、河田幾夫は、沓間万章に依頼して、従前の土地につき、その範囲を実地測量し、隣接する債務者側の宅地との間の境界を定め、その後右境界に板塀を設けたこと、また建物については、修繕その他の手入れを加え、実姉鎌田寿子をして、素人下宿屋を経営させていたことが、一応認められる。右一応の認定を左右するに足りる証拠はない。

(は) 債務者は、河田幾夫から再三要求があつたにもかかわらず、地主に対し、賃借権譲渡の通知をせず、むしろ、賃借権譲渡の事実を極力否認していたので(以上の事実は、債務者本人尋問の結果による。)、河田幾夫側において事情を説明し、地主は、それによつて賃借権譲渡の行われた事実を認め、少くとも、昭和二十六年八月以降は、河田幾夫に対し、従前の土地を引き続き賃貸したことが、前顕甲第二十二号証、債務者本人尋問の結果により原本の存在とその成立を認めうる乙第二十五号証によつて、一応明らかである。

(五) 有限会社甘粕が、従前の土地の建物につき、昭和三十一年三月二十六日、同日附売買を原因として、所有権取得登記を経由したことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証、当裁判所において真正に成立したと認める甲第三号証の一から三、公務所作成部分の成立は、当事者間に争いがなく、その他の部分は、当裁判所において真正に成立したと認める甲第六号証の一、二、債権者本人尋問の結果によりその成立を認めうる甲第六号証の三、債権者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、従前の土地の賃借権と地上建物は、債権者が五百五十万円で譲り受けたものであること、建物の所有権取得登記については、便宜、債権者が代表取締役をしている有限会社甘粕で登記を経由したこと、賃借権の譲受けにつき、昭和三十一年四月二十七日、地主の承諾を受けたこと、その後間もなく、河田幾夫から従前の土地、地上建物の引渡を受け、債権者の義弟森永友義とその家族並びに債権者が経営する飲食店甘粕やきとりの従業員を居住させていたことが、一応認められる。右一応の認定を左右するに足りる疏明はない。

(六)(い) 従前の土地が、土地区画整理施行地区に編入されたことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三十二号証によれば、本件土地は、その仮換地につき、河田幾夫において賃借権を有する土地の範囲として指定され、同人に通知されたこと、右通知において、仮換地指定の効力発生の日は昭和三十二年五月十七日と定められていることが、一応認められるから、同日以降換地処分の公告があるまでの間、債権者は、河田幾夫の承継人として、本件土地につき、賃借権に基ずくと同一の使用をなしうる権利を有するものといわなければならない。

(ろ) 前述の通知の当時、従前の土地の賃借権の帰属について、債務者と河田幾夫が訴訟中であつたため(この点は、当事者間に争いがない。)その旨を附記して、債務者に対しても、昭和三十一年五月十日附で、河田幾夫に対すると全く同一の権利指定の通知(もつとも、債務者に対する通知においては、仮換地指定の効力発生の日は、前同日とされている。)がされていることは、成立に争いのない乙第九号証の一によつて、一応これを認めることができるけれども、債権者が従前の土地につき、賃借権を失つていること前段説示のとおりであるから、右事実は、債務者に対し、本件土地につき、賃借権に基ずくと同一の内容の使用権を与えるものでないこと、いうをまたないところである。

(は) しかして、債務者において、現に、本件土地を占有していることは、当事者間に争いがなく、前顕甲第二号証、債権者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、昭和三十二年十二月二十七日、債権者において、区画整理事務所から本件土地の引渡を受けるや、債務者は、直ちに、本件土地の周囲に塀を設置し(この点は、当事者間に争いがない。)、さらに、そのなかに天幕を張りめぐらして、これを実力で占拠するに至つたことが、一応認められる。右一応の認定を左右するに足りる証拠はない。

以上一応の認定にかかる事実を綜合すれば、債権者において、従前の土地所有者に代位し、債務者に対し、本件土地の引渡を求める権利を有するものというべきである(債権者において、占有権を主張し、直接債務者に対し、占有回収の訴を提起することも、もちろん可能である。)。

二(保全の必要性)

(一) 債権者本人尋問の結果によれば、債権者は、新宿区角筈二丁目七十二番地(国鉄新宿駅附近)の土地の一部を、安田朝信から賃借し、飲食店甘粕やきとりを営んできたこと(この点は、当事者間に争いがない。)、その後、右土地の占有が、土地所有者の帝都高速度交通営団に対抗できない不法のものであることが判明するに至つたこと、しかして、丸ノ内、新宿間の地下鉄建設工事の進展に伴い、早晩これを明け渡さなければならない運命にあつたため、その移転先を求めていたところ、従前の土地の賃借権とその地上建物が売りに出ていることを知り、これを買い受けるようになつたこと、当初、債権者は、従前の土地の賃借権や地上建物の所有権の帰属につき、紛争のあることを知らないで売買の交渉に入つたこと、しかして、契約を締結する段階になつて始めて、債務者から訴訟を提起されている事実を河田幾夫から聞知したこと、同人からは、「すでに五年以上も前に売買契約の履行を一切完了していること、同人自身にすら、訴訟を提起された理由が理解し難いほどで、土地区画整理を機会に、不当な利益を収めようとしたものと推測されること、したがつて、全く憂慮するに及ばないこと」等を告げられたのであるが、債権務としては、始めて知つたことなので、契約の締結を延期し、地主及び区画整理事務所について、従前の土地の賃借権が河田幾夫にあり、同人に対し、土地区画整理法第九十八条第一項後段の規定による仮換地についての賃借権の目的地の指定がされるべきことを確認したうえ、売買契約を締結したことが、一応認められる。右一応の認定を左右するに足りる証拠はない。しかして、その後、債務者が、右訴訟の第一審において、敗訴の判決を受けたことは、当事者間に争いのないところである。

(二) 債権者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件土地は、従前、債務者が地主升本喜龍から賃借していたところであり、また、従前の土地は、債務者において賃借権を有する仮換地の範囲として指定されたため、相互に、その使用すべき土地を交換し合うように仮換地が指定されたこと、しかして、双方とも建物を所有していたため、いずれか一方において、建物を取りこわすのでなければ、双方ともに仮換地に建物を移転することが不可能であつたこと、たまたま従前の土地における債権者の建物が、これと交換的に移転すべき債務者側の建物に比較して小さかつたため、区画整理事務所から、債権者において、先にその所有建物を取りこわすよう強く要求され、債権者は、本件土地に早く移転したいという念願と、土地区画整理の遂行に協力するという意思で、昭和三十二年十一月頃、従前の土地にあつた建物を取りこわしたこと(債権者において、従前の土地の建物を取りこわしたことは、当事者間に争いがない。)が、一応認められる。右一応の認定に反する証拠はない。その後直ちに、債務者が、その所有建物を、債務者の仮換地先である従前の土地に移築したこと、さらに債務者は、一旦、本件土地に、その所有の他の建物を移築したが、その後、これを債務者の仮換地に移築したことは、いずれも、当事者間に争いがなく、昭和三十二年十二月二十七日、債権者において、区画整理事務所から、本件土地の引渡を受けるや、本件土地の周囲に板塀を設置し、さらに、そのなかに天幕を張りめぐらして、これを占拠するにつたことは、前段説示のとおりである。

(三)(い) 前顕甲第六号証の一から三、債権者本人尋問の結果によりその成立を認めうる甲第七号証、証人斉藤薰の証言及び債権者本人尋問の結果を総合合すれば、債権者は、一部、従前の土地の建物の取りこわし材をも利用し、本件土地に建坪三十七坪、二階十五坪の店舗兼住宅を建築しようと計画し、昭和三十二年九月十日附で、建築許可を得たこと、しかして、従前の土地の建物については、前述のとおり、取りこわしを完了し、新規購入の約百石の木材についても、上棟式ができる程度までは、直ちに建築が可能なように、切り込みを了えたこと、しかるに、債務者の実力占拠に遭い、右切り込み木材及び取りこわし木材は、大工の不完全な下小屋に積み重ねたままになつており、その保存は、充分にゆかず、このままの状態が続き早急に建築ができないときは、材質が脆くなるなど、不測の損害を蒙るおそれのあることが、一応認められる。保存の方法さえ完全であれば、木材は、古くなればなるほど良質のものになつてゆくという債務者本人の供述は、一般論たるにとどまり、必ずしも右一応の認定に反するものではなく、他に、右一応の認定を覆すに足る証拠はない。

(ろ) 証人斉藤薰の証言及び債権者本人尋問の結果を綜合すれば、債権者は従前の土地の建物の取りこわしに伴い、本件土地に建物が完成するまでの間、一時債権者方に、義弟の家族と甘粕やきとりの従業員を同居させたが、本件土地の不法占拠に遭つて同居が永びくに伴い、多人数(義弟とその家族合計五人、従業員女子十四名、男子三、四名)のため、狭隘に苦しんでいるなど、種々の支障をきたしていること、債権者が新宿区柏木一丁目百四番地において経営する大黒ずしの方には、債権者の実妹(未亡人)一家三人とその従業員を収容するほかに、甘粕やきとりの従業員までも収容する余力のないことが、それぞれ一応認められる。右一応の認定を左右するに足りる証拠はない。

(は) 債権者本人尋問の結果によれば、本件土地は、甘粕やきとり比較し、立地条件も良く、店舗も広いので、甘粕やきとりがあげた一日約十万円の売上を越える営業が可能であるというみとおしであることが、一応認められる。右一応の認定を左右するに足りる証拠はない。

(四) 債権者本人尋問の結果によれば、新宿西口における地下鉄建設工事は、昭和三十四年四月中旬頃から開始される予定であること、右建設工事が開始されると、甘粕やきとりの一つをおいて隣りの店舗までは取りこわされることになつており、また、建設工事による雑音等のため、甘粕やきとりの営業をそのまま継続してゆくことは、とうていできないことが、一応認められる。右一応の認定を左右するに足りる証拠はない。

以上一応の認定にかかる事実、とくに、債権者が区画整理事務所の強い要求により、土地区画整理の遂行に協力し、本件土地に移転しようとして建物を取りこわしたのに、債務者の不法占拠に遭つて、本件土地に移転することができず、取りこわしたままになつている事実、これに反し、債務者は、債権者の取りこわしによつて、従前の土地に移転することができ、すでに建物を移築している事実、他面、従前の土地、ひいては、その換地先である本件土地を移転先として求める動機となつた飲食店甘粕やきとりの営業継続不能の事態は、すでに目前に迫つている事実、かくては、債権者において、せつかく五百五十万円の資金を投じてしたことが、債務者の不法占拠のため、全く水泡に帰する等の事実を綜合考察すれば、保全の必要性につき、債権者の主張するその他の債務者側の事情の点を判断するまでもなく、本件土地につき、債務者の占有を解き、その妨害物を撤去したうえ、従前の土地にあつたすでに取りこわしずみの建物と同じ建坪程度の建物の建築を許すべきことを求める債権者の本件仮処分の必要性もまた存在するものといわなければならない。しかして、前述のごとき事情にある以上、債権者の自宅及び大黒ずしについて、仮に債務者が主張するような事実があつたとしても、これによつて本件仮処分の必要性を否定することは、とうていできないのであるから、右主張事実の認定は、これを省略することとする。

(むすび)

以上詳細に説示したとおり、本件において疏明された事実関係のもとにおいては、債権者の本件仮処分申請には理由があるということができるから、これを認容し、本件における必要な処分としては、債権者において前掲保証を立てることを条件として、主文第一項掲記のとおり定めることとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第九部

裁判長裁判官 三宅正雄

裁判官 柳沢千昭

裁判官片桐英才は、転任につき署名押印することができない。

裁判長裁判官 三宅正雄

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